歯科における院内感染の実態

院内感染あれこれ

先日ヤフーのニュース欄に右のような記事が掲載されました。

歯科治療の際、歯科医師によっては患者ごとに手袋を交換していないことがあるというアンケート結果です。

私が研修医だった頃の大学病院では物を取りに行くときでさえ手袋を外し、新しい手袋に交換していました。それからもう十数年経ちますが、このような結果が出た一因は、一般開業医のコスト意識ではないでしょうか。交換することで使用する手袋の量は多くなります。そして医療廃棄物として処理してもらうための処理費用も、使用済み手袋が増えることで膨らんでいきます。ですので、手袋を交換すると購入費用と廃棄費用で二重にコストがかかるのです。これが手袋を交換しない、という事に繋がっている気がします。

保険診療の場合、手袋を1回変えようが、2回変えようが、極端に言うと手袋をしなくても診療報酬は変わりません。保険点数にないので、手袋はしないという昔の先生もいらっしゃいます。この辺りは歯科医師としてのモラルに任されている部分でもあります。 

実際に聞いた話ですが、一昔前は手袋をいち早く導入した先生は患者から、「あの先生は私をまるで汚いものを扱うかのように手袋をして治療をする」と言われた事があったそうです。この患者さんは歯医者が汚いものを触るかの様に手袋をしている、私はそんなに汚いのか、と感じたのでしょう。例えて言うならば下水の掃除の際に手袋をするのに近い感覚だと思います。

人が汚いという場合、どちらかというとお風呂に入らない、フケがある、爪が長く汚い、垢まみれ、臭い、、、と言った感じでしょうか。我々人間は体内を除いて無菌ではありません。細菌と共生しており、逆に無菌だと生きていることができません。汚い=細菌がいる、という議論はさておき、どんなに小綺麗にしていても、我々人間は細菌とともに生きていると言えます。

話を本題に戻します。では手袋を交換していればいいのか、というとそう単純な問題ではありません。手袋をする目的は、感染しない事と感染させない事です。感染しない事とは主に感染性のある病原体から医療従事者を守る事です。これが先ほど例えで出てきた「下水の掃除」のシチュエーションと同じです。この時の手袋は下水に含まれる病原性あるものを直接触れないことで、掃除している人を守っています。

そしてもう一つの目的の感染させない事についてですが、これは歯科治療でいうと、Aさんが感染性の微生物を持っていたとすると、Aさんの治療をした後に同じ手袋でBさんの治療をする事で、Aさんの微生物をBさんにうつしてしまうという事が起こりえます。下水掃除した手袋そのままで料理はしませんよね。このAさんの病原体をBさんにうつさないために行う感染対策の1つが手洗いと手袋の交換です。滅菌していない器具の使い回しも感染させる事に当たります。

人間の皮膚には常在菌がいるので決して無菌状態ではありません。一番基本となるのは「手洗い」です。手洗いをきちんとした上で手袋をはめることが大切なのです。

手洗いの仕方には、処置によって日常手洗い、衛生的手洗い、外科的手洗いなどに分かれます。通常の歯科治療は観血的な処置も含まれますが、衛生的手洗いで十分だと言われております。医科の外科手術では手洗い設備そのものが専用のもので、かつ使用する手袋自体も滅菌されております。

このように単純に手袋を交換すればいいものではないですが、交換していないのはありえません。さらに言えば、歯科治療で使用する手袋を20分も使用すれば、ピンホールと言われる目に見えない穴が開きます。ですから一人の患者さんの処置が長い場合、その途中で手袋を交換する必要があります。

当院ではこれらのことを踏まえた上で、患者さんごとの滅菌器具の使用はもちろんのこと、手袋交換、手洗い方法などを実践しております。

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